恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―



別に私が悪いとも思っていないし、どちらかと言えば由宇が悪いとも思う。
でも、お互い心配しあってケンカなんておかしいと冷静に考えたら思えてきて、なんだかバカバカしく思えてきて。
だから仲直りしてもいいと思ったものの。
最近あまりケンカらしいケンカはしてなかったから、何かきっかけがないと声もかけられなそうだし……と考えたところでチョコにすがろうと思いついた。

今までケンカした時は割といつも、由宇が「まだ怒ってんの?」とか言いながらちょっかい出してきて、そのままなし崩しに仲直りってパターンが多かった。
今回も由宇からくるのを待っててもいいのかもしれないけど……ちょっと後ろめたい部分があったから私から謝ろうと決めた。

由宇に、バカって言っちゃったから。
由宇は私に色んな暴言を吐くけど、バカって言葉だけは一度も言った事がない。
それは、私が一番気にしている事だっていうのを分かってるからだと思う。

お母さんが出て行っちゃった時、私がバカなせいだってたくさん由宇の前で泣いた。
由宇は何も言わずにただ私の吐き出したモノを全部聞いた後、「おまえはバカじゃない」とポツリと、でもはっきりと言って私を抱き締めた。

それからも由宇は私に憎まれ口を叩く事はたくさんあったけれど、その言葉だけは使わなかった。

多分、普段言ってくる言葉だって、私が傷つかないラインを探って言ってくれてるんだと思う。
傷つかずに、言い返せるラインで。