私は由宇が何か言われたり、会社での立場を悪くするのが嫌なだけだ。
だけど由宇はそれを私に頼んだわけじゃないし、私が勝手に心配して勝手に空回りして失敗しただけで。

別に由宇は悪くない。
全部、私が由宇を思って勝手にした事。

――だとしてもだ。

「そんな言い方しなくてもいいじゃないっ! 私は心配して言ってるのに!」
「あ、おい、梓織……」
「もう由宇なんか痴漢に襲われればいい……っ! 由宇のバカっ!」

言いたい事だけ言って、由宇を追い越して全力で走る。
幸い家のすぐ近くまで歩いてきていたから、私の方が先にたどり着くことができた。

玄関のドアを閉めようとしたところで追いついた由宇に止められたから、そのまま二階にある自分の部屋まで走って鍵をかけて。
それからはぁー、と深く息を吐いてからその場にしゃがみ込んで、乱れた呼吸を整えた。

なんでこうなるんだろう。
ただ心配しただけなのに……なんでケンカになっちゃうんだろ。

『何が気に入らないんだよ』
由宇の呆れたような声が頭にリピートされる。

別に私は何かが気に入らなくって立ち止まったわけじゃない。
由宇に……突き放されたような気がして歩けなくなっただけだ。

うるせーな、なんて、いつも由宇が言う言葉だし私だって普段は気にもとめないけど、今回は聞き流す事ができなかった。
私になんか心配して欲しくないって言われてる気がして悲しくて、寂しくて。ダメだった。