「せ、先輩には敬語で話すようにしてくださいね。星崎さん。
広兼さん、渡したし目的も果たせたしもう行きましょうっ」

こんな近くでお目当ての由宇が見られたんだから、広兼さんはもう満足なハズだ。
そう思って言うと、広兼さんは釈然としなそうな顔をしながらも「そうね」と歩き出す。

とりあえず、この場を離れないと由宇が何を言い出すか分からないと思って足早に去ろうとしたのに。
トイレが我慢できない事にして全力ダッシュしようかとさえ思ってたのに。

「梓織」

後ろから呼ばれた名前に目の前が真っ暗になった気がした。

「梓織って……姫川の事じゃない?」と、なんで星崎さんが姫川の事名前で呼んでるのって疑問を顔いっぱいに広げている広兼さんに言われて、仕方なく立ち止まる。

振り返ると、由宇の向こうに広兼さんと同じ疑問を浮かべた融資管理課の人たちがこちらを見ていた。
もちろん、横田さんも例外じゃない。

「……なんでしょうか」

お願いだから余計な事言わないで。
もう、中学高校みたいな由宇争奪戦に巻き込まれるのは嫌なんだからお願い。

そんな思いで見つめている先で、由宇はいつも通りの顔でいつも通りの感じで口を開く。