「別に可愛くなりたい訳じゃねーからどーでもいいけど」
お返しとばかりに顔にかかる水滴は、さっきよりも量が多い。
「大体、おまえが色々鈍感で無頓着で無防備なのが悪いんだろ」
「なにそれ。それとやきもちのレベルが異常なのとどう関係があるの」
もう水を弾くだけでは気が収まらなくて、両手ですくった水を由宇めがけて投げつける。
「男相手に警戒心も持たずにヘラヘラするから相手が知らず知らずのうちに変な好意持ったりするんだよ。
なのにおまえがそういうのに鈍感で全然気づかねーから俺が牽制して追い払ってやってるんだろーが」
「だからって名取くんとちょっと会っただけであんな風な態度取らなくてもいいじゃない。
私だって、由宇の服から飲み会の匂いしたの気づいたけど何も言わなかったでしょ」
「それは本当におまえが何も思ってないからだろ。やきもちのやの字どころか恋愛のれの字も知らない女がよく言うな」
返ってきた水量が桶一杯分くらいあるんじゃないかってほどになって、頭からびしょ濡れになる。
もともと濡れていたしこれから洗うしどうでもいいけど、やられっぱなしが気に入らなくてムカムカしてくる。
そもそも、私が両手ですくえる量と、由宇の両手ですくえる量なんて差がありすぎるから私には不利な勝負なのだと今更気づく。



