あの時はそれしか思いつかなかった。
とにかく早くってそれしか考えられなくて、気付いたら走り出して水をかぶってた。
それはただ純粋に、由宇に拒絶されたくないって強い思いからだったけれど……今考えると奇行もいいところだ。
なんで、あんな事しちゃったんだろうって今冷静になると思える。
「別におまえはバカじゃねーよ」
膝に顎を乗せたままでいると、飛んできた水滴が顔にかかった。
犯人の由宇は、にっと笑ってこっちを見ていた。
「おじさんも言ってたろ、トラウマになってるんだって。おまえの中には過去のツラかった事を閉じ込めておく箱みたいなモンがあって、そのフタが外れそうになったから慌てて閉じ込めようと必死になってたってだけだろ。
防衛本能からきた咄嗟の判断なんだし、その間にとった行動が常軌を逸してても仕方ねーだろ」
「……常軌を逸してるのは由宇もじゃない。ちょっと名取くんと会っただけであんな態度とるとか。
やきもちも度を超えると可愛くないんだからね」
ぱしゃ、と水を弾いて由宇の頬にあてる。



