「それで……その例え話の場合、由宇は犯人じゃなくて警察だって話したの。
私を助け出してくれた警察だって。
名取くんとの話はもう終わってたし、それ以上話していたくなかったからそれだけ言って別れたんだけど……。
ひとりで歩いているうちに、お母さんの事を思い出して……息がうまくできなくなった」

由宇は私を見つめながら、「それで顔色が悪かったのか」と呟くように言う。

「呼吸の仕方がね、合ってるのか分からなくなって……どの速さが正しいのか、思い出せなくなっちゃって、それで……由宇に会いたくなった。
由宇の顔を見れば治ると思ったの。なんでだか分からないけど、絶対に治るってそう確信してた」

なんでだろう、と独り言のように言ってから、由宇と視線を合わせた。

「由宇の顔を見たらやっぱり落ち着いたけど、急に拒絶された」

少し責めるように瞳を歪ませる私に、由宇はバツが悪くなったのか苦笑いを浮かべて目を逸らす。
そんな由宇に笑ってから、「それで……」と続けた。

「拒絶された瞬間、頭が真っ白になって、とにかく名取くんの移り香を消さないとって思ったの。
そうしないとダメって……それしか考えられなくなって、それであんな行動とってた。
でも今考えると、バカな行動だったよね」