本当にこの件に至っては信頼なんてあったもんじゃないなと呆れながら、お風呂のお湯を指先でぱちゃぱちゃと弾く。
由宇の顔まで届くかな、なんて、沸いてきたいたずら心に従うべくだんだんと力を込めてお湯を弾いていると、滴の向こうで由宇が聞いた。

「ところでおまえ、今日なんかあった?」
「だから、名取くんと会ったけど」
「それ以外で。帰ってきた時、おまえおかしかったから。急に抱きついてきたり、顔色悪かったり。
今は顔色戻ってるし、体調崩してたわけじゃないんだろ?」
「ああ、うん……」

由宇の言いたい事が分かって、とりあえず頷く。
そして、体育座りみたいに折り曲げている膝に顎を乗せながら答えた。

「名取くんを振った後にね、誘拐犯の話になったの。
名取くんには、由宇が誘拐犯で私が人質に見えるんだって。人質の私は、犯人の由宇を慕う事で自分を守ってるんだって」
「嫌な例え話だな。まぁ、分からなくもないけど」
「私には全然分からないよ」

口を尖らせると、由宇はそんな私に困り顔で笑って。
それから、「それで?」と先を促した。