「でも、10年前だけ覚えてないのって気持ち悪くて。
それに多分、10年前の……中一の時のバレンタインは私にとっても特別だったハズなのに覚えてないのが不思議で」
「……特別って?」

由宇が真面目な顔で聞き返す。
わずかに寄せた眉に少しの心配がうかがえて、別にそこまで深刻な話でもないけどと前置きしてから答える。

「私、中学受験に失敗して塞ぎ切ってたでしょ?
そこから今の生活に慣れて軌道にのったのが冬休みの前くらいだったから……。
いつも一緒にいてくれた由宇には……その、それなりの感謝を込めてチョコをあげたと思うんだけど」

忘れちゃってるんだから、本当にそうかどうかは分からないけど。
でも、今の私だったら普段素直になれない分、バレンタインとかそういうイベントの勢いを借りて勇気を出そうとすると思う。
だからきっと中一の私もそうだったんじゃなかなと思った。

「でも……だったら忘れないだろうし、もしかしたら慌ただしくてあげなかったのかもね」

忘れたんじゃなくて、そもそもあげてないのかも。
毎年当たり前のようにあげていたつもりだったから、その年だけあげてないなんていうのはやっぱり引っかかるけれど、記憶がない以上そう考えた方が自然だと思って、話題を切り上げようと笑顔を作ったけれど。

見上げた由宇は私を見て、「いや」と小さく首を振った。
そして、「中一の時も確かに梓織からチョコをもらった」とだけ答える。

由宇の私を見つめる瞳が、真剣で……どこか悲しそうで。

「……覚えてるの?」

そう聞きながらも、胸が騒がしかった。