*第二夜 8*


その、夜。

アスラとイフリートは、領主の館近くの建物の陰に潜んでいた。



狭く暗い通りに身を隠し、大通りをじっと見つめるアスラの後ろで、イフリートは眉間にしわを寄せて立っていた。


しばらくじっとしていたアスラだが、やがて大きくため息をついて、「来ないなぁ」とつぶやく。


「もうそろそろ出てきてもいい頃なのに」


な、イフリート。と言って振り返ったアスラを、イフリートは険しい顔で見下ろしている。


「……どういうつもりだ」


低く押し殺した声で、イフリートが言った。


「何が?」


「なぜ、頭領などになった? マタルに居座るつもりか?」


低く問うイフリートに、「だめか?」と、アスラは首をかしげてみせる。


「おまえがそうしたいなら従おう。私はおまえの従者だ。……だが、マタルに居座るということがどういうことか、わかっているのか?」