荷袋の中の財布がなくなっていた。――スられたのだ。


「畜生、やられた! イフリート、あいつを追いかけるぞ!」


言うなり、アスラは駆け出した。

イフリートはカラスになって、空から少年を追う。


少年もアスラに気づかれたことに気づき、走る速度を上げた。


通りを行く人々がとくに驚いた様子もなく、走る二人を避けて道を開ける。

誰もがどこか諦めたような顔をして――つまりこの街では、これが当たり前の光景なのだ。


「まったく、マタルの領主は何をしてるんだ……っ!」


息を切らしながらつい先ほど言ったのと同じ言葉を吐いて、アスラはスリの少年を追いかけた。