ただ一つわかるのは、アスラを遠ざけはじめた頃からナズリの病状が著しく悪化した、ということだ。


王宮の人々は陰で囁く。――「誰にも必要とされなかった姫が、ついに母親にも必要とされなくなった。哀れなものだ」と。

そして、「きっと姫も自分を見放したナズリ様を恨んで、困らせようとして厨房で悪さをするのだろう」と。


そんな陰口など、アスラはどうでもよかった。

ナズリに避けられていることですら、どうでもよかった。

ただ、ナズリが元気でいてくれればいい。

アスラにとって母親は、王宮内で唯一守るべきものであったのだ。


そんなアスラの本心を、ルト以外は知らなかった。知ろうとしなかった。

――彼女が王宮を出て行った後も。