初めてのお客さんかな。男性だった。

「豚しょうが焼き丼を6個。味噌汁あります?」

「インスタントと手作りあります。あと豚汁です」

「じゃあインスタントの、なめこあります?」

「ございますよ」

「じゃ、なめこ6個」

 手作り味噌汁は、今朝あたしがネギを切りました。でも悲しいかなインスタントの方が安価だし売れるんだよね。次の機会に手作り味噌汁も召し上がってみてください。

「はい、ありがとうございます。ご注文繰り返します。豚しょうが6個、なめこ味噌汁6個。以上でしょうか」

「はーい、お願いします」

「お名前とお電話番号教えていただいてよろしいですか?」

「ミナセです。電話番号はー」

 ……ミナセ、さん? 注文シートに記入しながら、はて、ただの偶然だろうかとあたしは考えた。ドキドキ。でもこの電話の人は違うと思う。声が違う。ちょっと高い声。あの彼の声はもうちょっと低いし、しょうがの「が」がちょっと鼻にかかってるし。

「はい、ミナセさま。かしこまりましたー」

 ミナセ、豚しょうが焼き丼6個、電話番号と時間が書かれた注文シートを見ながら、考える。もしかして? いや、どうだろう。

「真白ちゃん、ナポリタンできましたー」

「あ、はーい」

 だから、ぼーっと考え事している暇なんか無いんだってば。とりあえず時間までに豚しょうが焼き丼6個を……。

「電話、注文?」

「あ、そうだ。豚しょうが焼き丼6個、11:30です」

 うっかり伝え忘れをするところだった。

「サラダそのままだった!」

 調子狂うな。ただでさえうっかり忘れがあるのに……集中。仕事なんだから。

「いらっしゃいませー」

「ええとー日替わりって何ですか?」

「白身じゃかなのフライに……」

 噛んだし。日替わり弁当のメニューを書いたボード、用意した方が良いよね……絶対あった方が良いよ。自分で作ろうかな。100円ショップに黒板あるかな? 考えながら、厨房へサラダの続きをやりに行く。ついでに冷蔵庫を開けて肉の入ったフリーザーバックを掴む。

「豚肉出しておきますね、店長」

「ありがと」

「玉ねぎどこやったっけ」

「切ったのこっち」

 ただいまの時刻、10:50。店長が「豚しょうがやってるよ」って言ったらご飯を盛ることにしよう。あ、またお客さんだ。

「いらっしゃいませー」