気持ちを切り替えても切り替えなくてもバイトの時間はやってきて、開店と同時に混雑したせいで今日も終電を逃してしまった。のろりくらりと自宅への道を進み、30分かけて電灯の消えた最寄り駅までたどり着く。
今日もいるのかな、と人気のないゆるやかな坂道をくだりながら道路を挟んだ向こう側にあるコンビニへ目をやる。いてもいなくても彼はいつかはやって来るので、マンションの裏手から先に姿を確認するのはやめたばかり。
何気なしにコンビニでコーヒーでも買って帰ろうかと、横断歩道の信号がまだ赤であることを確認する。
ざわり。悪寒のような痺れが背筋を走った。
私以外に誰もいないとばかり思っていたら、横断歩道を渡った先にあるガードレールに見覚えのあるカーキ色が座っていた。ちょうどカーブしたところに腰掛けて、駅の方を見ている。
なんで……いつもは、ゴミ捨て場の前にいるくせに。戸惑っていると彼は私に気付きひらりと手を振ってきた。
いや、振り返さないけど。ていうか、いくら道路に背を向けているからって……。
瞬間、黄色信号を無理に渡ろうと速度を上げた車が目の前を通過した。ひやりとして、青信号になった途端、私は腰を上げた彼のもとへ走っていた。
「危ないでしょ!!」
笑みを浮かべていた彼にたどり着くなり怒鳴ってしまう。みるみる困惑していく彼が目に入っていたものの、止まらなかった。
「深夜だからって、そんなとこ座って! 車だってまだ通るのに、もしスリップして突っ込んで来たら、どうするの!」
心臓がバクバクと嫌な打ち方をする。頭に血が昇るのに、体温は冷えていくようで。
「やめてよ、もう……」
事故なんて防げるものを、何度も見たくない。



