守っているつもりでいたんだ、本当に。私さえいなきゃって、本気で。
ひとり取り残されたような世界でも、いっくんだけを想っていれば、私は私で幸せなんだって。
それが間違いだったなんて思いたくないけれど、気付いたところで今さらだ。
関係の修復は容易じゃない。そもそも望むべきじゃない。お父さんが私をまだ家族だと思ってくれているとしても、ダメなんだ。私がハルである限り。いっくんを忘れない限り、未来は決まっている。
『そんなの分からない』
ふと頭に響いた声に目を見張る。いるわけないのに、思わず姿を探すほど驚いた。
『今さら、何もかも手遅れだと思ってる?』
『きみは、変わることが怖いの?』
次から次へと思い出す彼の言葉に、苦笑がもれる。詳しく知らないくせに、ずいぶん好き勝手言ってくれた。でも、真っ直ぐだった。信じて疑わない自分の心そのものを、言葉で表したようだった。
「転機……か」
ぽつりと彼の望みをこぼすと、すっと胸の奥を何かが通り抜ける。追いかけるように顔を上げると、窓の外には灰色の空が拡がっていた。
今も、変わろうとは思わない。
けれど、青になりきれない空を見つめながら思うのは、名前も知らない彼のことで。どこか寂しさを感じてしまうのは、こんな空の下でもお父さんは笑って過ごしているのか想像してしまうからで。小百合さんとユリカは元気にしているかくらい聞けばよかったって。変な意地を張らずに彼の名前を聞いておくべきだったかもって。
きっと私は自分でも気付けない速度で変わっているのだと、思う。
認めたくはない。それもまた自分次第だけれど。
「……いっくん」
迷うたびに手を引いてくれた人を、忘れられるはずがなかった。



