「いや、言葉が悪かったな。でも、そういうことだろ。だからお前が、気に病むことはない」
ごめんなさいと言いかけた私は戸惑った。気にかけてくれているのは分かっても、どうしてお父さんがそんなことをしなければいけないのか。私とお父さんは家族だけれど、なりそこないの家族だ。
「司くんには、もう会いに行くのはやめてほしいと言っておいたんだが……余計なお世話だったか?」
投げかけられた言葉を理解しても、含まれた感情はうまく解釈できなくて。ただ、胸が締め付けられるような思いだった。
「ううん。そんなこと、ない」
痛いくらいに苦しくて俯いたら、目の周りがじわじわと熱くなった。
「それだけ確認したかったんだ」
「うん……」
「ああ。じゃあ、風邪引くなよ。お前、いつも薄着だから」
心配だよ、と言われた瞬間、強く目を瞑った。
これじゃあ本当に、娘を心配して電話をかけてきたみたいじゃない。
電話を切ったあと膝を抱え丸まった私は、しばらく携帯も手放せず、動けなかった。散乱した思考をまとめるのに必死で、答えを見い出しそうになるたび、そんなわけないと否定して。それでもよぎってしまう可能性を黒く塗り潰すことはできなくて。
「最っ低……」
涙も、嗚咽も、出たりはしなかったけれど。もしかしたら私は、間違っていたのかもしれないと思った。
記憶の中にいるお父さんは、どこにいても控えめで目立たず、物事を静観している。
婿養子で権力も財力もお母さんのほうが上だったせいか、周囲の扱いも跡継ぎを生ませるためだけに存在しているようなものだった。
私の幼少期は、お母さんと、おばあちゃんと、いっくんとの記憶で埋め尽くされている。それくらい、お父さんと何かをした覚えがない。きっと私への接し方が分からなかったのだろう。私も、お父さんが本当はどんな人なのか分からなかった。



