「本人から連絡が来たんだよ。事後報告だったが、灯に会いに行った、って」
今の今まで忘れていた。忘れようと頭の中から追いやったことさえ。
思い出した途端、司さんへ浴びせた暴言が膿のように体の真ん中で溜まっていたのだと気付く。どろりと罪悪感に変わったそれが押し出され、言葉がつかえた。
「来た、けど……いっくんのことじゃ、なくて」
「ああ。聞いたよ」
ならよかった。内容が内容だけに司さんからどんな風に聞いたのか分からず、私からうまく説明できる気もしなかったため、これ以上は口を動かせなかった。
いっくんのことで会いに来たと思ったのに、実際は娘を探してほしいと頼みに来た司さん。私は一緒に心配するでも頼み事を引き受けるでもなく、感情のままに突っぱねた。大好きだったお母さんと血を分けた姉弟なのに、あの優しい伯父が自分の息子を忘れるなんてありえないのに、思い浮かぶ限りの言葉で責め立てた。
私は、赦されないことばかりしている。
「つらかったろう」
もしかしたら怒られるのかもしれないと構えていた私に、お父さんの言葉は不意打ちそのものだった。
つらいのは司さんのほうだ。おそらく最後の頼みの綱だった私にすげなく追い返されたのだから。
「聞いてないの? 私、司さんの頼み、断って……」
「聞いたよ。取り付くしまもなかったって」
「……じゃあ、なんで」
私がつらいだなんて、そんなこと。
「いい加減うんざりだろう」
心臓をひと突きされたかと思った。
私の妙な力のせいで、いちばんシワ寄せを食らったのは他の誰でもなくお父さんだ。あの家のしがらみから抜け出したいと思っていたのも、普通で平凡で仲のいい家族を望んでいたのも、きっと。



