「見張ってどうするの……来たら追い返そうとしてたってこと? 関係ないのに」

「あるよ」

「……、」

言い切るような声音と視線の鋭さに息を呑むと、彼は流れるように微笑みを浮かべた。

「ほら、他の男が近づくのは許せないって、ストーカーっぽいでしょ」

ぽいでしょ、って。やっぱり変だ、この人。どう見てもそれっぽくないのに、なんでわざわざストーカーだなんて。

「他には? 何かある? 俺に聞きたいこと。なんでもいいよ。知りたいこと、全部答える」

「何がそんなに嬉しいの……」

「浮かれてるのかも。無視されてちょっとへこんでたから」


口をつぐんだ。私、何してるんだろう。

思い返せば彼はほとんど私の質問に答えているだけだ。聞かれなければ答えない。知ってほしいと言った、自分のことさえ。


腕時計を確認すれば深夜2時を回っていた。終電はとっくにない時間。歩いて帰れる距離に住んでいるんだろうか。


興味は、ないけれど。


「あの人はもう来ませんから。あなたがしてる妙な心配も、必要ありません」


帰ってほしいと、そして二度と来ないでほしいと、暗に伝えたつもりだった。それがしっかり伝わり、悲しまれるのは感じたくはなくて。

「あと、服くらい着替えたほうがいいと思います」

別の話題に切り替えてから、頭を下げた。


「着替えたらっ、また、逢ってくれるっ?」


慌てたように、半分背を向けた私を引き留める、彼の心のかけら。何がそんなに彼を必死にさせるんだろう。