今さら拒絶したことを後悔している。司さんは当然といえば当然の行動をしただけなのに。私に申し訳なさを感じる必要はないのに。

娘の安否が心配でたまらない人に、自分で決めろなんて、何様なんだろう。協力する気もないくせに、優しくされたあとの罪悪感だけは一人前か。


「最低……」


積もった雪に残る司さんの足跡とは逆方向に、後ろ髪を引かれる思いで足を出した。


いつものようにコンクリートの外壁を左に曲がると舗道に落とされた常緑樹の影が揺れ、寒気が首筋を走り抜ける。

ざざっと体の横をかすめて一気に落ちてきたのは、枝に着雪していたそれだった。

頭から抜けていたわけじゃない。考える余裕がなかった。


足元で生き物みたいに揺らめいていた影がその動きを止める。


振り向くべきか否か。どちらにしても悲鳴を上げない心構えだけはしておこうと思った。


「雪玉投げた犯人です」


びくりと大袈裟に肩を跳ねさせた私は、どこか聞き覚えのあるその声に恐る恐る見向く。


ほぼ私の真上にある街路灯に照らされることなく、暗がりに溶け込むようにぽつねんと佇んでいたのは、知らない男の子だった。

けれど見覚えはあった。