のそのそ荷物をかき集め、もう一度窓の外へ目を遣る。どんよりと濁った灰色の空から無数に落ちてくるか細い雨。湿った街並みと雨の匂いを思えば、少しだけ幸せな気持ちになる。


雪になるといい。

そんなことを思って、作ったまま仕舞い込んでいた合鍵を握りしめ、リビングをあとにした。


「またそんな寒そうな格好して!」


マンションから出た途端、いつも薄着を指摘される私は思わず振り返ってしまう。ゴミ捨て場のそばで、

「はー……どっこいしょ」

と、若い男の子が膝に手を当てながら立ち上がり、私のほうを見た。そのときに梳かれた薄茶の髪が、雨で湿っているせいか鈍く光ったのが印象的で。


かち合う視線に男の子は目を丸くさせたから、少しうろたえた。


すると自身の背後を見遣った男の子が再び私に目を移し、唇を真一文字に結ぶ。ぎこちなく小首を傾げられた私は勘違いに気恥ずかしくなり、傘に隠れるようにしてそそくさと立ち去った。


寒そうな格好って、私のことじゃなかったのか……!


登校や出勤時間のピークは過ぎていて、周囲にはほとんど人が見当たらないから自分のことかと思ってしまった。


なんとも形容しがたい男の子の表情を思い浮かべると、羞恥心や後悔やら雑多な感情が沸き上がる。それを抑え込むようにして、信号待ちのあいだ空を仰ぎ、目を閉じて深呼吸。


ひんやりと澄んだ空気が肺に満たされると、頭も、胸の奥も、からっぽにできた。


いつもこうしているわけじゃないけれど。見たくなかったことや、感じたくなかったものに心乱されたくない時、肺いっぱいに空気を吸い込みたくなる。


ある種の防衛本能みたいなものだ。

そうして私は青に変わった信号の代わりに渡れなくなった横断歩道を見ることもなく、不必要なものを切り捨てるようにして、日常に戻ることを何より優先していた。