夢見るきみへ、愛を込めて。


「いただきます」

「どうぞ」

コーヒーが半分になった頃、気持ち程度に添えていた小袋のチョコレートを口に含んだ彼の様子がおかしい。落ち着かなさそうにきょろきょろと視線だけが宙をさまよっている。


「ていうか、ひとり暮らし……だっけ?」

その質問は意外だった。今の今まで家族と住んでいると思っていたのだろう。だから玄関でちょっとまごついていたのか。

「1ヶ月くらい前からね。知らなかったんだ」

うん、と頷いた彼はぐるりとリビングを見渡す。廊下へ続くドアに視線を注ぐと、気が済んだのか私を見た。その表情にどきりとしたのは、なぜだか哀しそうだったから。

「……何?」

「きみのこと、本当に少ししか知らないんだなって。ショックだ」

まさかそんな風に言われるなんて思わず、口ごもった。

何もかもを知ることなんてできっこないのだから、大げさだと流してしまえばよかったものを真に受けてしまうのは、彼が偽り言を口にしないせいだ。嘘をついているわけじゃないんだろうって、いつも感じる。


わずかに顔を出した罪悪感を押し込め、浅く息を吸った。なんて切り出そう。


「あなたは? 毎日のように来て、大丈夫なの?」

「大丈夫って、何が?」

「妹さん。家にひとりじゃないのかなって」

首を傾げていた彼は、「ああ」と苦笑をこぼした。

「さすがにこの時間は寝てるよ。部活やってるし、飯食って風呂入ったらすぐ寝ちゃうんだよね」


答えになっていないと感じても、前回のことがありあまり踏み込めない。
さみしい思いをさせているって、帰りが遅いからって意味でもあるのかと思ったのだけど、違うのかな。


「あなたは、ひとつ上って言ってたよね。学生? 勤めてるの?」

「こう見えても一応、大学生なんだよね」

「それはごめんってば……」


蒸し返された童顔疑惑にうなだれると、けらけらと楽しげな笑い声。遊んでるわけじゃないんだよ、私は。


彼は専門学生でも短大生でもない、大学生。関城先輩と同じ、私のひとつ上。