「ははっ。今、びくっとしたでしょ」
いつも通りバイトを終え、まっすぐ帰ってきた私の心拍数は、ゴミ捨て場の前にしゃがみ込んでいなかったストーカーのせいで跳ね上がった。
「何、してるの」
「電柱に隠れてたほうがストーカーっぽいかなって」
まだその設定を続ける気なのか。
「怖い。二度としないで」
「え。ごめん……驚かせたかったんだ」
眉を下げられ、こうも素直に謝られると私のほうが悪いことをした気分になる。
後先考えず思いついたことをすぐ実行しちゃうんだろうな、きっと。子供みたい。
許しを待っているのか黙ってしまった彼に、ふうとため息をつく。
「今日はどうしたの」
聞いたそばから間違ったと思う。話をしに来ているだけなんだから、どうしたもこうしたもない。
慣れない私に彼は眉を下げるのやめ、頬を緩めた。この柔軟さは子供っぽいと言うべきか、はたまたその逆か。
「うん。今日は何を話そうか」
彼についてほとんど何も知らないままでも、初めて話した頃のような息苦しさはなくなっている。代わりに、胸のずっと奥が締め付けられるような感覚が増えた。
なんにせよ不慣れでも付き合うしかない。それに今日は私から聞きたいことがあるのだから。
自分の手荷物と時計を確認し、意を決して顔を上げる。
「時間あるならうちで話さない?」
大きく目を見開いた彼が危険人物かどうかは、ずいぶん前に判然としていた。
「毎晩、寒いでしょう。お茶くらいなら出せるし、私も立って話すのは疲れるし」
「……いいの?」
「どうせ部屋の番号も知ってるんでしょ」
「知ってます……」と顔を覆った自称ストーカーらしい返答に不快さは感じないけれど、
「どうしたの」
「まさかの急展開にうおーって叫びたいのを我慢してる」
あえて触れなかったのに、変なことを言わないでほしい。



