受信メールを閉じ、電車の到着アナウンスを聞く。目の前に止まった電車が巻き起こす独特な風を受け、降車する人たちを眺めながら、いるはずのない人を探す。


『ハル』


――ねえ。いっくん。あなたが今の私を見たら、なんて言うのかな。嫉妬する? 喜んでくれる? いっくんはいつも優しくて、残酷な言葉を吐くときさえ微笑んでいたから、本心が見えなかったよ。


事故に遭う夢を話した時だって、動揺することも回避しようとすることもなく、困り眉の下で笑ったね。


『ごめんね。僕の夢で、怖い思いをさせたね』


謝ってほしかったわけじゃないんだよ。抱きしめてほしかった。離れずにいてほしかった。……行かないで、ほしかった。


いっくんのいない世界はごちゃごちゃと複雑で、望んでいないものばかり差し出されて、どうすることが正しいのか分からない。


だけど、だからこそ、私は。


『大丈夫だよ、ハル。今はまだ分からなくても、必ず気付く時が来るから。……その力を、嫌わないで』


いっくんが私の全てだったように、いっくんの言葉も信じてみようと思う。本心が見えなくたって、いっくんはどんな私に対しても分け隔てなく接してくれたから。


発車メロディーが流れ、人並みから視線を外す。


大丈夫。呼びかけに応えてもらえなくても、不必要と感じていたものを追い出さなくても。忘れない。色褪せない。


いっくん以外の人を頭に描いても、踏み出した足はしっかりと地面を蹴り上げた。



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