「じゃあ、なんでお前のお袋さんはルースに来たんだ?
『彩霞ノ民』は外部との関わりを嫌うんだろ。
しかもヨリジェ北部からここまでって、相当な距離があるぜ」
「うん、それはね……」
ティファニーが口ごもった。
いくらか躊躇うように両手の指を絡めて床に顔を向ける。
が、すぐに何ともない様子をつくって言った。
「20年近く前、『彩霞ノ民』の集落がモルダ王家の軍に襲撃されたの」
セドナはティファニーの様子で薄々勘づいてはいたが、非情な事実に文字通り二の句が継げなくなる。
同じような反応をする者もいれば、まったく予想外だという表情の者もいた。
ニコだけが、唇を尖らせて首を傾げる。
ティファニーは落ちた布団をガウンのように羽織るとベッドに腰かけた。
長い息を吐いてから話を再開する。
「襲撃された理由は、母さんにも分からないって。
でもきっと、この『無色の瞳』が怖くなって襲ったんだと思う。
夜中に一気に攻めこまれて、集落だけじゃなくて周りの森も焼かれて、死にものぐるいで逃げたそうよ。
母さんは心臓が弱かったから、生き延びられたのは奇跡だって自分で言ってた」
ティファニーは淡々と語っていく。
肉親の辛い過去のこととはいえ、経験していないから冷静に話せるのだろう。
けれども、腿に置かれた拳はか細く震えていた。


