『辛い』という感情は、針として記憶していない。
でも、はっきりと針にはなっていない他の曖昧な感情と一緒に、青い円盤に刻み込まれていた。
水の中にいるような、息ができないような苦しみが胸をひっかく。
それがニコの覚えた『辛い』という感情。
(……確かに、ティファニーがぼくのバンダナを作り替えてくれたとき、ちょっと安心しましたね。
手放さずに持っていてくれるのだと。
もし、あのバンダナをティファニーが捨てていたら、ぼくはどう思うのでしょうか。
セドナの言うように、『辛い』と感じるのでしょうか)
想像してみる。
でも、できない。
針が増えて人間に近づいているのに、やはり生き物の特権はニコには与えられないようであった。
考え込むニコをよそに、セドナの手からぬいぐるみを取ってタンザはじっくりと眺めた。
「でもこれ、本当によく出来てるよなー。
改めて思うけど、ティファニー目見えないのにこんなにできるなんてすげえや」
「だな、見えててもできねえやつだっているのに」
「人間は1つの感覚を失うと、他の感覚でそれを補おうとするからな。
特に指先の神経とか、周りの様子を感じとる器官が発達してるんじゃねえのか?
だからああやって健常者みたいに動けるし、裁縫も得意なんだと思うぜ。
それに見えなくても不便にならないように工夫してるから、余計にそう感じるのかもな」


