「……まさか、この異国の地で知ることになるとはね。
あの伝説が現存するものだと」
ぼやきにも似たセイクリッドの声は、そのまま空中に溶ける。
視線を落とし、自分の左手を見つめた。
かすかに震えている。
セイクリッドは瞼を閉じた。
暗くなった眼裏に、目の当たりにした光景を思い出す。
瞬間、身体中から汗が噴き出るのを感じた。
不快感を増長させるように細い風が流れ、じっとりした肌を撫でていく。
だが、左手の震えが大きくなったのはそれが原因ではない。
この震えはまさしく、セイクリッドが幼少のころから兄・ターフェと共に教えられてきたある言い伝えを証明するものだった。
「……やはりヨリジェ国王家の人間だからかな。
どこへ行っても、僕は義務から逃れられない運命なんだ。
できれば避けたいけど、そうと分かったからにはこの僕が果たさないと」
セイクリッドは思い出した光景を頭から追いやり薄く目を開ける。
そこには穏やかな彼からは全く想像できない、氷のような光が宿っていた。
その奥に揺らめく激情が何に対するものなのか。
それを知るのはもちろん、セイクリッド本人しかいなかった。


