ティファニーに返事をする余裕を与えず、セドナが彼女の腕を引っ張った。
かなり大股で歩いているせいで、ティファニーは彼に合わせて足を動かすのがやっとという様子だ。
遠ざかる姿を見つめるセイクリッドの表情は、相変わらず穏やかなままである。
「いやー、ラブだねぇ」
タンザはにやりと笑い、膝に頬杖をついた。
「あいつ、オレやタンザが見ているってこと忘れて飛び出して行ったよな」
「今頃それに気づいて慌ててるかもよ?
でも可哀そうだから、今回のことはいじらねえでやっとくか」
「おや、お前がセドナに優しいなんて珍しい」
タンザが本当にびっくりした顔でラリマーを見上げた。
心外だとばかりに、ラリマーはタンザの頭頂部を肘でぐりぐり押す。
「珍しく、あいつがティファニーの王子様になったからな」
「確かにな」
「まったく……ご主人様が悪い虫にナンパされて引っかかりかけたっていうのに。
こんな一大事に、ニコの野郎はどこ行ったんだか」
老人の靴と、老婆の鞄の修理を終えたニコは、名前を呼ばれた気がして太陽の沈んだ空を仰ぐ。
もう藍色に染まり始めた東の山端には、一番星が瞬いていた。


