すると罠にもがいていたはずのキマイレナが、嘘のようにおとなしくなった。


青年を見つめ、三本の尾をくるくると丸めていき、腹部を彼に向ける。


服従のポーズだった。


怯えるキマイレナに何をすることもなく、青年は優しげな目つきでじっと見つめる。


その視線にすら怖がっているようだ。


少し離れて様子を窺う猟師たちの間にざわめきが走る。



「すげえ、あんなに暴れていたのに……」


「ああ、キマイレナを怖がらせれるとはな。


タダ者じゃねえとは思っていたが」


「あのー……誰なんですか、あの人?」


「えっ、お前知らないのか?あいつは最近ルースに来た……」



彼らの話には耳を傾けず、青年が腰につけたホルスターから黒い銃を取り出す。


小振りな外装とは裏腹に強い威力を誇るものだ。


その照準をキマイレナの眉間に定め、カチリと撃鉄を引き起こす。


薬莢の臭いを嗅いだのか、キマイレナが細長い瞳孔を震わした。



「見れば見るほど痛々しいな……。


こちらの身勝手ですまない。


だが、我々にも守らなければならないものがあるんだ。


せめて楽に逝けるよう、一発で終わらせよう」



青年が引き金を引く。


静寂を轟音が引き裂き、そこから発した銃弾がキマイレナの眉間に穴を開ける。


キマイレナの身体が、電流が走ったかのように大きく跳ねる。


青く錆びた鉄色の血を吹き出して、倒れたその巨体は動くのを止めた。