その体毛のせいで、頭部と胴部の境目どころか、顔のパーツすら判別できない。
ただ、人間の歯をそのまま拡大したような口だけは分かった。
歯茎はどす黒く不気味で剥き出しである。
口唇が存在しないのだろう。
唾液と赤い液体でてらてらと光って気味が悪い。
よく見ると、顎から胸のあたりにかけて、べっとりとどす黒い液体で汚れていた。
金臭い臭いの正体は恐らくあの液体、長時間空気に触れて変色し始めた血だ。
そして酸の臭いは、あの獣の体臭なのだろうか。
あれが岩山の主・ロアだった。
ロアはのしのしと岩肌を降りていたが、その足がぴたりと止まる。
鼻のあたりをひくつかせ、そして―――タンザとハックの方に顔を向けた。
ガパリと口を開き、猛突進を始める。
その割に、足音はかなり静かでまだ聞こえなかった。
「逃げろ、お前ら!」
事態を認識したセドナが鋭く叫ぶと、ハックがびっくりしてこちらを振り返り、ロアの存在に気づいた。
しかし採取に熱中しているのか、タンザは反応しない。
(まずいっ!)
「タンザ!」
ようやくタンザが怒鳴り声に気づいて身構えたが、遅かった。
ロアが跳躍し、剝き出しの歯がタンザに襲いかかる。


