それは喰われた獣の頭部だった。
半分弱しか残っておらず、食いちぎられたであろう断面は、獣の脳漿や肉、口や鼻の中の構造までもがよく分かる状態になっていた。
まったく見慣れていないわけではなかったが、何の心の準備もせずには直視できない。
ラリマーは思わず口を押さえ、頭部に背中を向け、その場に膝をついてえずいた。
胃の中のものを少し戻し、口をすすいで吐き気を抑えこむ。
それまでずっと背中をさすっていたニコが、申し訳なさそうに聞いた。
「……大丈夫ですか?ラリマー」
「ああ、何とか。
この角度から見るのはきついから、ちょっと移動する……」
這うようにして岩を下り、ニコと正反対の場所から、再び頭部を観察する。
こちらも見るに堪えないほどだが、さっき見たものに比べれば格段にマシだった。
特徴的な目の部分を見つめ、記憶を巡らす。
「分かった……こいつはヤカゲだ」
「ヤカゲ?」
「こういう岩場に生息する節足獣だよ。
獣というよりは爬虫類だな。
でもおかしいな、いくらヤカゲでも、ロアの縄張りになんているはずがない。
というか、ここらへんは生息地だったか……?」
ラリマーは水を飲むと、頭部を視界に入れないで上へ向かった。
彼が倒れても転がり落ちることのないよう、ニコは後からついていく。
「もし、アレをやったのがロアだったら……まずい、厄介なことになるぞ」
「厄介なこと、ですか?」
「ロアは岩山に一頭だけなんだ。
縄張りを荒らされたと認識したロアは、落ち着くまではずっと攻撃的になっている。
そんな状態で見つかったら……人間だろうが小動物だろうが、あのでっかい口で噛み殺されるぞ」


