「ガゥウウウ……」
キマイレナがごつごつとした岩肌を足がかりに、器用に壁を登りケセラに近づいていく。
『怪物』『化け物』という言葉がふさわしい獣の接近に、ケセラの身体に恐怖がこみあげた。
あまりの恐ろしさに、内蔵が口から飛び出してしまいそうである。
(だめ……怖いけど、怖いけど……逃げちゃ、逃げちゃだめなんだ)
ケセラは腕の中にある友の体温をお守りに、音がする前方を見つめた。
確実に近づいてきている。
自分を獲物として狙っている獣が、もうすぐそこにいる。
コルルたちも全身の毛を逆立て、牙を剥き、迫り来るキマイレナを待ち構えた。
(僕よりずっと小さいのに……みんな、かっこいいな)
――ガッ!!
段の淵に、真っ黒な手が掛かった。
2本、3本とそれは増え、やがて顔が見えた。
ほのかな灯りに照らされ浮き出るキマイレナの顔は、異様で不気味だ。
ケセラは唇を強く噛み、喉から出そうになる恐怖に耐える。
(まだだ……まだ)
キマイレナがケセラのいる段に登りきった。
辛うじて進めるほどの幅しかない。
落ちてくれればとケセラは思ったが、キマイレナは左側の3本足で器用に段の淵をつかみ、ゆっくりと忍び寄ってくる。
血の金臭さが混じる吐息をかすかに感じるほどの近距離。
ガバリとキマイレナが口を開いた。
鋭い歯が二重に並んでおり、小柄なケセラが感嘆に入りそうなくらい大きい。
(今だ!)
コルルたちが一斉に空気を深く吸い始める。
ケセラはきつく目を閉じて両手で覆い、叫んだ。


