誰なのかは分かっているので、ティファニーはいきなり耳打ちされてもあまり驚かなかった。
「ティファニー」
ニコの小声が耳朶に触れる。
肩に乗った手に、ティファニーは右手を重ねた。
「終わったの?」
「はい、時間稼ぎ、ありがとうございます。
後は任せましたよ」
ニコはホルダーから鞘付きの小刀を取り出しティファニーに握らせる。
もう片方の手首を掴んで、彼女の後ろに張った縄を触らせた。
「分かったわ、任せて」
差し出されたティファニーの拳に拳をぶつけ、ニコは洞窟の外へと走っていく。
いつの間にか、キマイレナの唸り声がすぐ下から聞こえていた。
それを認識した瞬間、全身に緊張が走り、嫌な汗がにじみ出てきた。
(大丈夫よ、ティファニー。
あなたよりも幼い子がもっと頑張ってるのよ、しっかりして……)
ティファニーは小刀を胸に押し当てて、深く呼吸を繰り返す。
それから自分がいる壁とは反対側、ケセラの方へ顔を向けて小石を3個、立て続けに投げた。


