「グルルル……」
獣が低く唸り、数歩後ろへ下がって低姿勢となる。
めくれた唇の隙間から鋭い牙が見える。
生き物の肉や骨を簡単に噛み砕きそうだ。
――食べられるかもしれない。
そう思った瞬間、ケセラの思考回路がほんのわずかな時だけだが冷静になった。
地面から腰を放し、状況を把握出来ていないティファニーを見上げる。
「ガァアアアアアアアッ!!」
「危ない!」
獣が咆哮し、2人目掛けて地を強く蹴りとばす。
広げた口には、唾液まみれで怪しく光る歯がずらりと並んでいる。
それが到達するより早く、ケセラはティファニーの腕を引っ張って脇にそれた。
ティファニーの小さな悲鳴をかき消す、派手な音が響く。
獣が幹に噛みつき、その後ろに立つ木々を巻き込みながら転がっていった。
凄まじい勢いだ、喰らえばひとたまりもない。
「びっ……くりした。何がいるの?」
「あ、あれは……」
ケセラの脚が震え始める。
今になって恐怖が襲ってきた。
のどが引きつり、うまく声が出せなくなる。


