「大丈夫?」
「ふぁい……あいたた」
ケセラはゆっくり起き上がり、顔についた土を払う。
湿った土の優しい匂いに混ざって、胸を悪くするような異臭がふわりと鼻腔に入り込む。
足元を振り返ってみると、そこにはコルルのフンがあった。
そのすぐそばに、棒のようなものが転がっている。
片端は、色あせた布にくるまれてある。
どうやら、これに躓いて転んでしまったようだ。
顔を近づけて、その棒を観察する。
――それは腐敗した、誰かの腕だった。
布はどうやら服の袖部分。
腕から先はなくちぎられており、持ち主は分からない。
「うわあああっ!」
予想もしなかったものに、ケセラは悲鳴をあげて後ずさった。
ティファニーの横を通り過ぎ、その先にあった幹に後頭部を強く打ち、痛そうにうめく。
「ど、どうしたの!?」
ティファニーが問いかけるが、震えるケセラは何も答えられない。
涙が出そうになり、唇を強くかみしめた。
へっ、泣き虫。すぐ泣いて助けてもらうことしかできない、情けないやつ。
だからおまえみたいな弱虫には、何もできないんだよ。
ギベオンの意地悪く笑う顔が浮かび、彼の声が脳内で響く。
泣いてはダメだ。
今、目の見えない彼女を連れて行けるのは自分しかいないのだ。
そう自身に言い聞かせてケセラは腿を叩き、拳で目をぐいっと拭った。


