聞く耳を持たず穴を掘り始める一月先輩の職人にため息をつき、小柄な職人は茂みに向かった。
「……それにしても、なんでガイヤの密集区からコルルがいなくなったんだ?
つい一月前まではちょっと入れば何匹も見つけられたのに」
「おーい、喋ってないではやくやれよー」
「へいへい」
草をかき分け、スコップの代わりになりそうな木片か石がないか探す。
その最中、妙な地響きを耳にした。
重量のある何かが、ゆっくりと歩くような音。
(なんだ、これ?俺の気のせいか……?)
「……な、なあ」
「どうした」
「なんか、変な音聞こえねえか?」
「音?どんな」
「足音みてえなの」
2人も手を止めて耳をすませる。
確かに聞こえる、小柄な職人の気のせいではない。
重々しい音が、ゆっくりとだが確実にこちらに近づいてきている。
3人はランプを片手に立ち上がり、音のする方を見据えた。
「な、なんなんだ一体?」
「おおっ、俺が分かるかよ!」
「ま、まさか……獣?」
小柄な職人は小瓶のフタを外し、目の前の闇に向かって樹液をかけた。
ツンと青臭いにおいが辺りに散る。
しかし、音は止まるどころか、枝を折るような音も伴ってさらに近づいてくる。
職人たちはかたまり、恐怖に震えながら、闇を見つめる。
逃げたくとも、足がすくんで動かない。
耳障りな歯の音や喘鳴は、誰が発するものなのか。
鬱屈としたシオードの森は、3人の悲鳴を呑みこんだ。


