セドナが慌てて振り返ると、ティファニーがケセラに手を伸ばしていた。
ケセラの肩に触れ、優しく腕の中へ収める。
ポンポンと背中を叩き、赤子のようにあやした。
「大丈夫よ、ケセラ。
ニコも言ってたでしょ、そうとは決まっていないって。
もしかしたらほかのエサを探したり、別のコルルのところへ出掛けているだけかもしれないわ」
「……ほ、本当に?」
ケセラがティファニーを見上げる。
さらに赤く腫れぼったくなった目が痛々しい。
ティファニーは微笑んで頷いてみせた。
「そうよ、デシンはきっと、すぐに戻ってきてくれるって信じていなきゃ。
物事をあんまり悪い方へ悪い方へと考えるのは良くないわ。
幸せがどんどん逃げて、その考えたことが本当に起こってしまうから」
「……わ、かった。もう少しデシンを探してみる」
「いい子ね。諦めたらダメだよ」
「うん」
ケセラの頭を、ティファニーはそっと撫でてやった。
涙を拭くケセラも落ち着いてきた様子である。
(ティファニーがいてくれて助かった……)
自分やニコが宥めたとしても、こう上手くはいかなかった。
周囲に絶対に『泣かした』と勘違いされ、あらぬ疑いをかけられていたと思う。
最悪な展開を想像して、セドナは胸をなで下ろした。
その後方、高い屋根の上から、ギベオンが広場を見ていた。
ニコたちがケセラを送りに路地へと入っていく。
「……ふん!」
ギベオンは面白くなさげに鼻を鳴らして、持っていた小さな玉を下へ投げつける。
くぐもった破裂音と複数の悲鳴が聞こえたが気にしない。
隣の屋根に飛び移り、ギベオンも家へと向かった。


