みるみるうちにケセラが真っ青になる。
小刻みに震える手からクレープがこぼれ、地面に落下した。
アイスがぐしゃりとつぶれ、赤土色のレンガにシミをつくる。
その上にケセラの涙がかかった。
「ど、どうしよう……デシンは僕の、たったひ、1人だけの友達なのに……盗まれちゃったなんて、そんなあ……ううっ」
(やっべ、しまった)
小さく舌打ちして、セドナは拳で額を叩いた。
ティファニーも同じことを考えたのか、気まずそうに口元に手をあてる。
当人の目の前で、デリカシーに欠ける話をしていた。
口から出てしまった言葉はもう戻せない。
ケセラのしゃくり上げる声は徐々に大きくなり、彼にまとわりつく空気もどんどん重圧を増していく。
「まだ盗まれたとは決まっていませんよ、その可能性も考えられるという話ですから。
その場合、デシンを見つけるのは非常に困難なことになってしま」
ゴンッ!
ベンチから離れ、セドナがニコの脛を蹴った。
痛みはないがぶつかったと感じたので、話を途中でやめてニコはセドナを見下ろす。
「なにするんですか」
「お前は黙ってろ!傷口えぐって塩胡椒塗りたくることにしかなんねえから!」
言葉の勢いを残しつつ、セドナは精一杯声を押さえる。
ニコは唇を尖らし淡々と返した。
「塩も胡椒も持っていませんが」
「例えだよ、そのまんまの意味で素直に受け取るんじゃねえバカ!
もういいから喋るな、これ以上ケセラが泣いたら困んだよ!」
両手で胸ぐらを掴み、セドナが必死にニコに訴える。
ニコは彼の怒っている理由が分からないが、言われたとおり口をつぐんだ。


