「そのおかげでぼくは感情のまま動けるようになり、混乱する隊列から抜け出せました。
強い雨が降って足元が悪くなっていくなか、すぐに森へ駆け込みました。
後ろから制止のために矢を射られたり銃を撃たれたりしましたが、すべて無視しましたね。
とにかく走って、少しでも離れればぼくは自由になれる。
もう何にも苦しまずにいられる。
ただそう信じて、ひたすら走り続けました」
少年は束の間、目を閉じる。
放電を受けた刹那、自分の中にあった枷が外れた感じがした。
制御するものがなくなり爆発した負の感情は、望みへの動力へと変貌し、主を突き動かしたのである。
ただし、そこに喜びのような情は一切なかった。
獰猛な獣のように渦巻く感情に耐え切れなくなって、そこから少年が出した答えが『逃避』だったのだ。
外で風がうなったのか、窓がガタガタと揺れる。
ティファニーの細い肩がびくりと震えた。
「でも、ぼくが解放されることはありませんでした。
どこへ走っても逃げても、記憶に焼付いた敵兵たちは闇の中からぼくを追い続けてきました。
逃げた先で遭遇した人間には『化け物』と怒鳴られ、石をぶつけられました。
あちこちが汚れたり破損したりして、それが雑兵人形と相まって、相当不気味に見えたんでしょうね。
そのたびに枷を失った"心"、特に『恐怖』の感情に苦しめられました」
「そんな……」
ティファニーは息をつめた。
戦場の恐怖だけでなく、出会う人間からも与えられる恐怖。
少年は異なる恐怖に囚われ続けていたのだ。
自分だったら、耐え切れない。


