「どもっす。さすが、酔っぱらいの叱り方に慣れてますね」
「まあね、職業柄さ。
慣れてしまえば、そんな難しいことじゃないよ」
腹踊りを始めた男が、足を引っかけられて派手に転んだ。
そこで少年は、彼らの周りの椅子やテーブルが脇に寄せられていることに気付いた。
二次災害を防ぐ手段だろう。
(慣れているな)
少年は咀嚼している肉を、お茶で流し込んだ。
「おや、もうこんな時間か」
女将が部屋の大時計を一瞥して、皿洗いを中断する。
冷蔵庫から薄切りにした野菜と肉を、戸棚からパンを出した。
「またサービスですか」
「いいや、これは今からくるお客さん用だよ。
いつも決まって、この時間帯に来るんだ」
しゃべりながらも女将の手はテキパキと動き、あっという間にいくつかのサンドイッチが出来上がった。
それを紙袋につめる作業を見ていると、玄関のドアベルの音がかすかに聞こえた。
「お、来た来た」


