そう言ってティファニーは微笑む。
胸中の感情を笑顔で上書きしたような、そんな笑み。
見ている少年の方が、辛い気持ちになる。
「辛くないんですか」
「え?」
「街に来るたびにこんなことをされて、嫌じゃないんですか」
あの時、少年を支配しかけたのは『嫌悪』の感情だった。
不自由なティファニーを困らせ、それを楽しむ男子たちが許せなかったのだ。
その思いがそのまま口に出て、少々厳しい声になっていた。
ティファニーは気にする様子もなく、ゆっくり首を振った。
「嫌だよ、嫌じゃないって言ったら嘘になる。
意地悪されてても、周りの人に見て見ぬふりをされることだってたくさんある。
あんな人ばっかりだったら、私、家から出ていないよ。
ルースじゃなくて、別の街へ行っていたと思う」
「でも、君は今ルースに……」
「だって、ちゃんと私を見てくれる人がたくさんいるもん。
目が見えない私を支えてくれる人たちがいる。
だから少しでも恩返しができるように、お母さんから教わったことを生かして刺繍屋になったの。
修理屋くんみたいに、助けてくれる人にだって出会えたし、残ってて良かった」
ティファニーは無邪気に笑った。
最初に訪れた、民家の主婦や子どもたちを思い出す。
あの場に包まれたティファニーは、本当にうれしそうに笑っていた。
だから、苦しい思いをしても、こうして頑張れるのか。
――ちり。
わずかに左胸に温もりが広がった。


