パチリと糸切り鋏で糸くずを取り、ティファニーは刺繍を終えたハンカチを広げる。
無地の薄緑色のハンカチの中央には、翼を広げる小鳥がいた。
周りには花を象った模様を走らせている。
「まあ、さすが、上手ねえー」
サフィラがハンカチを受け取って、他の主婦たちと一緒に眺める。
少年も見せてもらった。
一針一針丁寧に縫ってあり、盲目の少女がつくったとはとても思えない。
手触りのよい縫い糸を使っているのも、彼女なりの工夫だろうか。
「すごい、丁寧ですね」
「ありがとう。凄腕の修理屋さんに言われると嬉しいわ」
ふわりと甘い香りが漂ってくる。
焼きたてのクッキーを詰め込んだバスケットが目の前に置かれた。
丸顔の主婦が、にっこり笑う。
「ユークたちが迷惑かけたわねえ。
これはせめてものお詫びだよ、いっぱい食べてちょうだい」
「ありがとうございます」
ティファニーが針道具を片付けていく。
その正面に座って、丸顔の主婦は少年を見た。
「そういえば聞きそびれてたけど、修理屋さん、あんた、名前はなんていうの?」
「あ、私にも教えて欲しい」
パッと片付けをやめて両手を膝にそろえ、ティファニーは背筋を伸ばして少年に向く。
ココア味のクッキーを嚥下して、少年はこの街で2回目の説明をした。
「名前はありません。
修理屋と呼んでください」


