この時間では、どこの店も閉まっている。
移動やアクシデントによる疲れもあって、荷車は宿へ直行した。
手綱を握る部下に指示を出して、カーボは少年を振り向いた。
「坊主も宿に泊まるんだろ」
「あ、はい」
「なら、同じ店にしよう。
安くて飯がうまくて、親切なところがあるぜ。
俺たちはいつも泊まっているから、よくしてもらっているんだ」
少年は荷車の隙間から外を覗いた。
街に明かりは灯っているが、開いている店はやはりない。
宿へ行く以外、することは無さそうだ。
「じゃあ、そうします」
「そう来ねえとな。坊主の宿泊代は、俺たちが出してやるよ」
「え、お頭。大丈夫なんすか?」
若者の一人の声が裏返った。
カーボが眉間にしわを寄せ、あきれたように言う。
「あったり前だろーが。
てめえ、もう荷車を直してもらった恩を忘れたのかよ、薄情だな」
「や、そうじゃなくて。
守銭奴のお頭がそういうことするのは珍しいなーと」
「上司に言うセリフか、アホ!」
若者が頬をつねられ、荷車の中に笑いが起こった。


