「へえー」
先人の知恵、というものだろう。
人間が持つ発想力はやはりすごい。
(観察しながら行ってみよう)
少年は小さなわくわくを抱いて、食堂を出た。
荷物をまとめ、長く世話になった宿を出る。
もうすっかり自分の家のような感覚があって、いざ離れるとなると少しだけ寂しい。
地図を頼りに、少年は西の森を目指した。
途中ですれ違う人たちに修理を依頼されたが、少年はすべて丁重に断った。
一人引き受けてしまったら、きりがない事態になるのは目に見えている。
森に近づくにつれて民家は減り、田畑や空き地が増えていく。
やがて入口が見えた。
きれいに整えられた石垣の向こう側に、丸葉と褐色の幹をもつ細長い木がたくさん植えられてある。
あれがガイヤの木なのだろう。
試しに近づいて匂いをかいでみたが、柑橘系の香りがするだけで不快さはなかった。
「危険な獣がこの匂いを嫌うって、よく分かりますね……」
感心しながら、太い道を進む。


