女将が両眼をぎゅっとつむった。
分かりづらいが、ウインクをしようとしたのだろう。
少年も、女将の闊達さを気に入っていた。
だから泊まる宿を変えることはしなかったのである。
「ごちそうさまでした」
少年は手を合わせて立ち上がると、腰から工具を取り出して室内を見回した。
皿を洗おうとして女将が気づく。
「どうしたんだい?」
「今日は何を修理すればいいですか?」
「今日はいいわよ、あんたもう行っちゃうんでしょ」
「いえ、そういうわけには。
朝食分の仕事、何もしていませんし……」
蛇口をしめて女将は考える仕草を見せた。
宿の修理物は、もうほとんどない。
あるとしても修理するほどの破損ではないため、少年は釣り合わないと思うだろう。
だからといって、修理をなしにしても少年は不満に感じるはずだ。
「困ったわねぇ、どうしようかしら……」
女将も考えながらキョロキョロ首を動かしたが、何か思いついたらしく指を鳴らした。


