「経営なら心配いらんよ。
そちらはセドナに任せるつもりだ」
「え!」
「そんなっ!」
二人の声が重なった。
どちらも驚きが含まれているが、セドナには喜びが、ヒーラーには悲しみが表れていた。
ルーアンがヒーラーに顔を向ける。
「何か不満かね?」
「だ、だって先生、セドナは……」
「もう見習いではないぞ、セドナは一人の職人だ。
力量は充分足りていると思うが。
嫌なら、明日からもう来なくていいぞ」
つまり、拒否したらクビ、破門ということだ。
もはや打つ手がないと悟り、ヒーラーは黙りこむ。
ルーアンは二人の間を通り過ぎ、作業テーブルと作業机を見比べた。
「ヒーラー、勘違いをするんじゃないぞ、わしはお前のすべてを否定してはおらん。
ただもう一度、学び直すべきことがあると感じたからだ。
わしが入院して、多くのことをお前に押し付けてしまったせいかな。
今日はもう帰っていい。
一晩、自分が失ってしまったものが何なのかをよく考えて、また明日ここに来なさい」
「……はい」
ヒーラーが素直に返事をする。
やはり師匠の言葉だから、受け止め方も違ってくるのだろう。
天井を見上げ、工房長は息混じりに呟いた。
「……お前はいつから、宝石の値だけで飾りの価値を判断するようになってしまった」
ハッ、とヒーラーが息を呑む。
だが何も発さず、一礼して工房を出て行った。


