相手は同世代だが、立派なお客である。
店の外から見られたら、変な噂が立ちかねない。
工房のメンツを潰す事態は極力避けなければ。
「すみません、急にこんな……。
大変失礼しました」
男二人が慌てる横で、エレスが洟をすすった。
目尻を指先でそっとぬぐい、優しく笑む。
ヒーラーは急いで二つのトレーを脇の台に置き、セドナの後頭部を掴んで下を向かせた。
自分もこうべを垂れる。
「いえいえっ、失礼なことをしたのはこちらですよ。
ウチの見習いが、御迷惑をおかけして」
「め、迷惑だなんてとんでもないです!
……これは、嬉し泣き、ですから」
「ウレシナキ?」
ヒーラーの声が間の抜けたものになる。
力の緩んだ彼の腕を外して、セドナは体勢を戻した。
「こんなに私や、母のことを考えてくれて……すごく嬉しいです。
そうですね、母への愛を忘れてはいけませんね」
そこで言葉を区切り、でそうになった嗚咽を飲み込んでエレスはセドナを見た。
「大切なことを教えてくれてありがとうございます、セドナさん。
母もきっと喜んでくれるわ」
その言葉で確定した。
ヒーラーが悔しそうに歯を噛む音が微かに聞こえた。
エレスはセドナの首飾りの箱を受け取り、工房を去って行った。


