「純粋な感情ですよ。
関わりを持った人間の強い感情を人格ごと記憶するのではなく、その感情のみを覚えるようなんです」
「ん……んん?つまり、どういうことだ?」
「例えば、セドナに教えてもらった『悔しい』という気持ち」
少年は菖蒲色に染められた針を示した。
これが、セドナから学んだ『悔しい』感情を覚えた針のようである。
「仮にセドナがぼくの主だとします。
主から『悔しい』という気持ちを教わったぼくは、主と同じように、周囲の人間から見下されることに対して、『悔しい』と感じます。
主に似るというのは、そういうことです。
だけど、今のぼくはセドナから感情を教わっても、同じものに対して『悔しい』とは感じません。
どちらかといえば、『嫌悪』の感情を抱きます」
そう言って、今度は天鵞絨(びろうど)色の細長い針を指差した。
「これが、よく知られている羅針盤と異なる点。
覚えた感情を、『ぼく』が持つ人格に合わせて変化させられるんです」


