もう間もなく自分は壊れてしまう。
生物でいう『死』がそこまで迫っているのだ。
呑まれたものがどうなってしまうのか、知らないわけではない。
きっと真っ暗な生き物に頭からぱくりと呑まれてしまって、目を開けているのかも肌で何かを感じているのかも、意識があるのかさえも分からなくなってしまうのだろう。
『ニコ』という自分が闇に溶けてしまうのは少し怖い。
それなのにどうして、こんなことを思ってしまうのだろうか。
最後の最後でまた人間に近づけたからだろうか。
チリ、チリ、と音は続いている。
羅針盤に、そっと抱かれたときの温もりが生まれる。
「……ぼくは、幸せでした」
「えっ……」
「っおい、ニコ……!?」
突然ニコの声や口調がほとんど元通りになった。
ティファニーだけでなく、静観を続けていたセドナたちまで思わず前のめりになる。
しかしシャロアだけは特に驚いた様子も見せず、眼鏡を押し上げて身じろぎしただけだった。
ニコは直ったのではない。
今の彼は、言わば燃え尽きる寸前の蝋燭の焔の揺らめきだった。


