夜11時。
風呂上がり、部屋でやりたくもない宿題を片付けているとスマホが鳴った。


『着信 牧村明仁』


思いもかけない名前に、一瞬出るのを躊躇う。



「……明兄?」



明兄は恋人ハルの5つ上の兄貴。

そもそもハルとは隣同士の家に住む幼なじみで、オレの兄貴と明兄は同い年で仲が良い。

だから、明兄もオレにとっては兄貴みたいなもんだ。

……けど、遠方の大学に行ってからは、年数度の帰省の時にしか会わない仲でもある。

メールや電話はたまに来るけど。



「はい」

「叶太?」

「うん、どうしたの。珍しいね」



と言いつつ、多分、ハルに関する話だとは当たりをつける。

明兄は、溺愛している妹ハルに直接聞けないことがあると、オレに電話をかけてくる。



「週末、帰るから、空けといて」

「え? 週末こっち来るの!?」



電話の向こうの明兄の言葉に、思わず大きな声を出すと、



「声でかい」



と少し遠くなった声で、冷静に文句が返ってきた。

って言われても、ハルじゃなくてオレに予定を空けておけって言う段階で、穏やかじゃない。



「あ、ごめん。えっと、だけど学校は?」

「週末まであるかよ」



そうですよね。

相変わらずの明兄に、こっそり内心ため息を吐く。

ハルには激甘、ハルの前では他の人間にも少し優しい口調になる明兄も、夜、絶対にオレしかいないと分かっている電話では本性丸出しだ。