「そんな……ひどい。
総司は何も悪くないのに」


横で静かに話を聞いていた楓の声が、切なげに震える。


「だよなあ。
生まれたことが罪だって言われてもなあ」


「そんなこと、あるわけない」


お前なら、そう言ってくれると思ったよ。


人狼という事実を知った後でも、楓は俺を人間として扱ってくれた。


「近藤先生も、同じことを言ってくれた」


試衛館に着いた俺を待っていたのは、
当時の天然理心流宗家、近藤周斉先生だった。


『沖田宗次郎です。
よろしくお願いします』


『よく来たなあ、宗次郎。

今日はムリしなくていいから、明日からがんばっておくれ』


『あなた、私が宗次郎を案内しましょうか』


近藤夫妻は、とても面倒見の良い人たちだった。


俺はおかみさんに家の中を一通り案内され、それから道場へ向かった。


『ここが道場だよ』


『道場……』


『剣術を見たことがある?

宗次郎も大きくなったら、内弟子にしてもらえるかもね。

それまでお勤めをがんばるのよ』


おかみさんが笑って道場の戸を開く。