無事に締切を過ぎ、あの約束した金曜日の今日。
まだ午前9時だというのに、暑い中歩くわたしの手の中には、ユキセンセの部屋の合鍵。


「……あつ」


最近は、暑くて夜ですら寝苦しいこともある。たまらず冷房をつけたりすることもしばしば。

だから、日中も寝てるかもしれないユキセンセだって、当然エアコンを使用してると思う。それで“寝太郎”とかってヨシさんから聞いたから、また風邪でも引いてるんじゃないか、なんて、図々しい心配が過る。

マンションに辿り着くと、建物を仰ぎ見て、自分の手のひらに視線を落とす。

黄色い小さな“ゆるキャラ”のキーホルダーがつけられた合鍵。
こういう流行りモノが、センセでも好きだったりするんだ、と、受け取ったときに思ってたら、ヨシさんの趣味でつけたらしい。

たまにこの鍵を使うのは、ヨシさんくらいということが判明して、心のどこかで安心する。そんなわたしは、数年ぶりの恋に、嫉妬心が加わってるらしくて自嘲の笑いを薄っすら浮かべる。


鍵穴にキーを挿し、右に回すと同時に自動ドアが開いた。

たった3日前まで会っていたのに、もう、彼のことを思い出してドキドキする。

玄関の前に立つと、鍵はあってもインターホンを一応鳴らす。
一度目の音が消えていき、2度目も同じように聞こえなくなったところで、わたしは仕方なく合鍵を使ってドアを開けた。